移住、子育て、そして「自分らしい仕事」への挑戦
結婚して、子どもが生まれ、妻として母として生きる日々。でも同時に一人の女性、一人の人間としての「私」も見つけたい――今の南相馬にはそんなポジティブな女性がたくさんいます。その一人、子育ての傍ら福祉ネイルのお仕事を始めた西山絵梨佳さんにお話を聞きました。
移住のきっかけと未踏の地・東北
――突然決まった移住、当時不安はありましたか?
被災地ということで大丈夫なの?と心配する人もいましたが、私はそれ以前に東北自体が未踏の地で不安。そこで夫と下見に来たらスーパーも学校もあるし子どももいる。「なんだ、普通に暮らせるじゃない」と。夫と結婚し新しい生活が始まることもあり、逆に移住後はここに行こう!とかガイドブックをあれこれチェックしたり。むしろ楽しみになりました。
子育てと仕事のバランスに悩んだ時期
――縁故のない土地でのワンオペ育児は大変では?
2度目の出産が双子だったのは想定外でした。しばらくは義母が南相馬に滞在しサポートしてくれたのですが、ちょうど新型コロナが流行し始めて…。万が一高齢の義母が慣れない土地で感染したら大変、という心配から大阪に戻っていただきました。
でも一人で2歳児と双子の乳幼児をみるのは想像を絶する大変さでした。保育園に預けるためにパートを始めたのですが、やっぱり子どもが急に具合が悪くなって仕事を休まざるをえないようなことが度々ある。そうなると職場には理解があったんですが自分自身の気持ちはつらくなるんですよね。独身の頃はもっときちんと働けてたのに、とか。仕事していると子どもたちとの時間が短くなるというジレンマにはまり、育児と家事と仕事のバランスに悩んだ末、仕事をやめ専業主婦に戻ったんです。
ママ同志の出会いから生まれた交流と目標
――専業主婦に戻られたのに、なぜもう一度働こうと思ったのですか?
子育ては大事ですがそれ以外で社会とつながっている部分も持っていたいという気持ちはずっとありました。長男の出産前後でママさんを対象にした市の講座や交流会に出るようになったのを機に次第に知り合いも増えていきました。そうしたつながりのなかで福祉ネイルのお話を聞き、すごく刺激を受けたのが今の福祉ネイルの仕事を始めるきっかけでした。
実は私、香川では高齢者をお世話する仕事がしたくて介護福祉士の資格を取り高齢者施設で働いていた時期があったんです。でも職場はとにかく忙しくて個々の利用者さんとゆっくり向き合う時間が全然ない。悩んだ末、エステの仕事に転向しました。
だから美容を通じてお一人おひとりと向き合い、心を通わせる福祉ネイルの話を聞いて「これだ!」と思いました。それから日本保健福祉ネイリスト協会JHWN認定校に通い、あわせてディンプルアートの資格も取って、今年から具体的に動き始めたところです。
自分らしい仕事で社会とつながる-福祉ネイルという仕事
――やりがいを感じるのはどんなとき?
ご高齢の方はネイルなんて全く経験なく、無料体験会でも皆さん最初は遠慮されますが、おひとり受けられると「じゃあ私も」ってなりますね。
なかでも「90歳で初めての経験をさせてくれてありがとう」とか、施術からずいぶん経った方に「ほら、まだ残ってるんだよ。すごく嬉しかったから、取らないようにしてるの」とおっしゃっていただけたときは嬉しかったです。後者の方には後日、施術時の写真と御礼の手紙をお届けしたのですが、出身地のこと、被災したときのこと、自ら色々お話くださり「あぁ、うちとけて信頼されたんだな」と実感できました。
とはいえ介護の分野で外部からの有料の付加価値サービスはまだまだハードルが高いので、今はプレゼン資料を作って無料体験会を提案する傍ら色々イベントにも出店し、《福祉ネイル》の認識を社会全般で高めたいと思っています。
日常生活と仕事のやりくりは大変?
――子育て、そして仕事。どう両立されていますか
平日は夫を仕事に、子どもたちを学校や幼稚園に送りだして家事を済ませたあと仕事のための時間を取るようにしています。学童クラブや延長保育を利用させてもらえるので助かります。その分、休日は家族そろって買い物や遊びに出かけることが多いですね。
南相馬は広々とした公園のほかに小高交流センターとかNIKOパークなど雨でも遊べる全天候型の遊具施設もあります。少し足を延ばせば相馬や新地でも子どもが楽しめる場所が多くて、長男は今自転車にはまっていて、〈しんちパンプトラック〉がお気に入りです。子どもが参加できる無料のイベントも多いし、医療費や給食費等子育て支援もすごく充実してる。そういう意味では見知らぬ土地での子育てでも安心してのびのびと育てられる環境が整っているな、と思います。
音楽のある暮らし。学びなおしは子どもたちとともに
――習い事をされているとお伺いしました。
はい、実は今母子4人でピアノを習っています。私が子どものころ何年か習っていて、数年前、また弾いてみようと軽い気持ちで電子ピアノを買ったのがきっかけでした。ところが全然弾けない!譜面を読むのも怪しいレベルで…。でもせっかくだからと今、原町の音楽教室で基礎から学びなおしています。いざ始めてみると練習もすごく没頭できて本当に楽しいです。
そのうち驚いたことに長男が教えてないのに両手で弾き始めたのです!《エリーゼのために》を弾いたときは親バカですが「才能あるかも?」って思いました。
周囲の勧めもあり去年から長男が習い始め、今年5月からは双子もグループレッスンに参加するようになりました。親子4人なのでお金も送迎も大変ですが、子どもの教育で私がしてあげられて一緒に楽しめるものって音楽くらいかな?と思うので続けていきたいです。
不便さが与えてくれる『楽しみ』
――出身の香川と比べ不便を感じることは?
香川で私が住んでいたところも郊外でしたが、比べるとやっぱり不便さを感じることはありますね。買い物も、ものによっては車で宮城の仙台や名取まで出ないと手に入らない。最初は夫に愚痴ることもありました。
でも最近『モノに囲まれすぎない良さ』に気づかされました。先日も高速使って1時間かけて映画を観に行ったんです。そういうときは『よし、映画みにいくぞ!』とか『スターバックスでフラペチーノも飲んじゃおう』とか気合が入るというか、楽しみになる。これって身近にスタバがあっていつでも飲めたら楽しみでもなんでもなく終わる。発想の転換次第で不便さも楽しめるものですね。
最近の西山さんは小さな商い立ち上げのワークショップ『わたしのcoしごと福の島』(主催:icoi)を受講した同期生と『HARMONIA(ハルモニア)』というグループを立ち上げ福祉ネイルの認知度アップに多角的に取り組んでいるそうです。
地方移住は「コミュニティーにとけこめないのでは?」という不安がつきものですよね。
でも今回の取材を通じ感じたのは、何の予備知識も準備もなく飛び込んだ移住でも、南相馬で子育てしながら気の合う仲間と出会い、やりたいことを見つけ、挑戦する人が増えているんだな、ということでした。移住者が新しい風を呼び込み、それが受け入れられ、さらに住みやすい、やさしいまちになっていくのかもしれません。
子育ても、自分の夢も実現しながらたくましく生きる姿に、共感しました。
同じ境遇のママさんや夢を叶えたい方、ぜひ南相馬に!~
ライター:須藤和子